ANARK STUDIO 2 FOR MAC OS X
2003年7月29日に待望の Anark Studio 2 for Mac OS X がリリースされました。実はこのリリースの発表は SIGGRAPH
中に行われたらしく、Anark 社の気合いの入りようが伺えます。
Ver. 1.5.2 と Ver. 2 の比較は前回やったので、今回は主に Windows 版との比較と、
また Mac OS 版にしかない機能に注目してみたいと思います。
(サムネイルをクリックすると元のイメージを新規ウィンドウで開きます。画像の一覧はこちら)
0. インストール
インストールに必要なスペックは以下の通りです。
- Mac OS X v10.2 (Jaguar) or later
- 256MB of RAM or more
- Any graphics card that supports OpenGL 1.2.1 or later
- Minimum of 100 MB of free disk space
最近の Mac であれば、多分、大丈夫でしょう。
インストール作業は、Anark Studio 2 の CD-ROM を入れて、メニューに従っていくだけです。 シリアルナンバーさえ入れればあとは特に問題はないでしょう。
1. 概観
では、次。全体のスクリーンショットはこんな感じです。
Mac OS X 版 | Windows 版 |
![]() |
![]() |
一見してそれほど違いはないように見えますが、アシスタントパレットがなかったり、ファインダーのメニューに Script がないなど、 細かいところが異なっています。タイムライン・パレットやその他のパレットの構成にはほとんど差はありません。
基本的に同じバージョンのソフトなので、やはり違いがあっては困りますよね。その点ではこのインターフェースにある差は軽微なものでしょう。 次に述べる一点を除いては。
2. エクスポートできるフォーマット
しかし、大きな違いが一つだけあります。それは Anark で作成したコンテンツを他の形式で出力できる種類の多さです。元々マルチメディア製作には強いといわれている
Mac ですが、この点においてはその力を遺憾なく発揮しております。 おそらく、Windows 版でもそのうちフィーチャーされるとは思いますが、 動画への出力に関しては現時点では
Mac が Windows に比べ、大きく水をあけています。
Mac OS X | Windows | 備考 |
Windows Screensaver (SCR) | Windows 用スクリーンセーバー形式 | |
Projector (APP) | Projector (EXE) | 実行形式 |
Anark Player (AM) | Anark Player (AM) | Anark Media 形式 |
Default Browser | Default Browser | Anark 対応 Web ブラウザーで閲覧可能な形式 |
AVI | AVI | MS Video for Windows 規格の動画形式 |
MPEG4 (MP4) | MPEG4 規格の動画形式 | |
Image Sequence | 連続した静止画での出力 | |
3GPP (3GP) | 携帯電話などの移動体通信用動画形式 | |
FLC | Autodesk 社の Autodesk Animator 用のフォーマット | |
QuickTime (MOV) | Apple 社の QuickTime 形式 | |
DV | デジタル・ビデオ用のフォーマット |
参考までに括弧内に、エクスポートされる際にファイルに付けられる拡張子をあげておきます。
Mac OS 版に無い出力形式はスクリーンセーバーのみです。その他の Windows 版にある出力形式は全てカバーされています。
各フォーマットへ出力する際には、非常に細かい設定ができます。筆者は Mac をほとんど触ったことがないのでよく知らないのですが、おそらくこれは QuickTime
Technology をフィーチャーすることで実装しているものと推察してみました。そのためか、Mac OS 版の Anark Studio 2 が出力できるファイルは大体が
QuickTime Player で見ることができます。
以下にキャプチャー画像を交えて簡単に紹介してみたいと思います。
2.1 各出力フォーマットの紹介
Export メニュー
- ● Projector
- Mac OS 用の実行可能形式です。この形式では、Anark Media ファイルと Anark Player を一まとめにしたファイルが出力されます。Anark
Studio 2 で作成したコンテンツを、このファイル単体で再生することができます。拡張子は .app で、Mac OS 上では一つのファイルに見えますが、実際にはファイル名+
.app という名前のフォルダ下に Anark Media と Anark Player が入っています。出先の Anark Player がインストールされていない
Mac OS で Anark Media を見たい場合などに便利でしょう。
- ● Anark Media
- Anark Player で再生できる形式です。デフォルトではこの形式で出力されます。インタラクティブなコンテンツを製作するのであればこの形式で出力し、Anark
Player で再生します。プラットフォーム毎に Anark Player が用意されていれば、プラットフォームに依存せず、どのような OS でも再生が可能です。現時点
- ● Default Browser
- Anark Client プラグインが対応している Web ブラウザーで再生できるように、Web ページと Anark Media ファイルを出力します。出力された
Web ページのファイルを Web ブラウザーで開くと、Web ブラウザーの中で Anark Media を見ることができます。ユーザーは Anark
コンテンツ用に一から Web ページ用のコードを記述する必要はありません。Anark コンテンツを盛り込んだ Web ページ作成には、一旦 Default
Browser でエクスポートしてから、生成された Web ページのコードを編集するとよいでしょう。
- ● AVI
- Microsoft Video for Windows という規格の動画フォーマットで出力されます。コーデックの設定などができます。コンテンツの内容や設定によっては、MPEG
で出力するよりも小さいサイズで同程度のクオリティを得られる場合もあります。ただし、動画再生ソフトによるストリーミング (プログレッシブ・ストリーミング:ダウンロードしながら再生)
はできません。CD-ROM などのリムーバブルメディアによる配布で使われたりします。
- ● MPEG4
- ISO準拠のMPEG4フォーマットでの出力をおこないます。ストリーミング用の設定など詳細な設定ができます。ネットワークを使った配布に適したフォーマットです。
- ● Image Sequence
- コマ撮りのように、再生したコンテンツを連続した静止画で出力します。筆者の知識・経験不足により、効果的な使い方は説明できないのですが、もう少しで
GIF フォーマットの特許期限が切れるので、静止画でエクスポートして GIF に変換して、GIF アニメーションを作る方法を思い付いたのですが、たぶん、このような使い方をする人は稀というか、いないと思われます。綺麗に任意のフレームを静止画で出力したい場合には便利かもしれません。各フォーマット毎に色んな設定ができます。出力できる画像の種類は、
となっています。
ここではデフォルトの PNG の設定画面を載せます。
- ● 3GPP
- 第3世代移動体通信システムの標準化プロジェクトによる動画形式で、MPEG4 フォーマットのサブセットです。今回の目玉だと思われます。この形式では、ある程度クオリティは落ちてしまいますが、3GPP
をサポートした携帯電話等で、Anark Studio 2 で製作したコンテンツを動画として見ることができます。NTT Docomo の新しい FOMA
や、J-PHONE では今のところ (2003年8月12日の時点) SH-53 で見ることができるようです。
- ● FLC
- Autodesk 社の3D アニメーションソフトの Autodesk Animator で使われている動画形式での出力ができます。あまり耳慣れないフォーマットだと思われますが、QuickTime
がサポートしているフォーマットの一つです。画像の差分情報を用いたフォーマットで、データの非可逆圧縮は行わないとのことです。ASCII
のデジタル用語辞典によると、色数に制限があるようで、256 色となっています。
- ● QuickTime
- Apple 社の QuickTime で再生できるMOV 形式に出力します。今回、この QuickTime Technology が Anark
Studio 2 に採用されたことで様々な動画フォーマットへの出力が実現されているものと思われます。MOV 形式は QuickTime における標準の動画フォーマットです。他の動画形式への出力と比較して目立つ特徴としては、フィルター機能が使えるところです。エンボスやフィルムノイズなどのエフェクトをこの段階でかけることができます。このフォーマットに関して筆者の個人的な好みを言わせていただくと、コマ送りに強いところが挙げられます。一時停止中の再生位置ドラッグにスムーズについてきてくれたりします。
- ● DV
- 家庭用デジタルビデオ用のフォーマットで出力できます。独立した輝度信号をそのまま DV テープに持っていけるため、デジタルビデオ用のカセット・テープへ高画質に記録できます。テレビモニターで見る場合に適していると思われます。
2.2 3GPP 形式へのエクスポートについて
今回の目玉機能であると思われます、3GPP 形式へのエクスポートについて、少し説明を加えます。3GPP は第3世代移動通信システムの標準化プロジェクトによる動画形式であり、モバイルコンピューティングで使われるデバイス、今は主に携帯電話での動画再生に特化しています。ここ数年で携帯電話のスペックが著しくあがっていますが、当然、パソコンほどではありません。携帯電話の持つメール機能や
Web ブラウジング機能、テレビ電話機能などで用いられる動画の再生では、そのスペックに最適なクオリティと一連のコーデックが求められます。この最適なクオリティについてですが、あまり高品質に設定すると、現在、執筆している時点でこの
3GPP をサポートしているされている携帯電話の推奨設定/仕様から外れるため、再生できない恐れがあります。このため、その設定に注意が必要です。以下のリンクは参考となる
Web ページへのものです。筆者の周りには 3GP ファイルを再生できる携帯電話がないので実機によるテストはできなかったので、実際に閲覧してみた感想などは述べられないのが残念ですが、興味のある方はリンク先を参考に目的に応じた設定を試みてください。
- 作ろうiモードコンテンツ
- iモーション
− NTT Docomo - J-SH53で再生できる動画を作る
− J-SH5x ユーザー友の会(仮)様による説明です。(残念ながら J-PHONE、SHARP のオフィシャルサイトには J-SH53 の 3GPP/MPEG4
動画コンテンツ作成に関する情報は見つかりませんでした)
また、3GPP 形式でエクスポートした、拡張子 .3gp ファイルの 再生ですが、QuickTime Player に 3GPP コンポーネントを追加することで再生できるようになります。詳しくは
Apple の 3GPP + QuickTime についてのページを参照してください。
3. その他 Windows 版と比較して
3.1 改良されたと思われるところ
3.1.1 ツールチップス
Mac OS 版では、タイムラインパレット上のタイムバーをドラッグするとツールチップスが出るようになっています。これは、Ver. 1.5.2 にはあった機能なのですが、Windows
版では削られてしまっており、その変更を残念に思ったのですが、Mac OS 版ではちゃんとそのままになっています。
移動したタイムバーの開始/終了時間とそのデュレーションがわかるのでタイムラインの管理に便利です。
3.1.2 インスペクターパレットに画像のプロパティが表示される
2D のイメージを選択したとき、インスペクターパレットに解像度などのプロパティが表示されます。テクスチャーなどは大きすぎると処理が重くなるので、ここで確認できるのは便利だと思います。
3.1.4 オンラインヘルプのページ内検索ができる
Mac OS 版ではオンラインヘルプはアシスタントパレットではなく、外部 Web ブラウザーを使って閲覧します。Windows 版ではできなかったページ内検索ができます。ただ、これは
Windows 版でも不可能ではないと思うので、開発者の方、よろしくおねがいします、とか言ってみたりして。
3.2 残念な相違点
3.2.1 スクリプトのエディットが内部ではできない
冒頭でも述べましたが、ファインダーのメニューや、プロジェクトウィンドウのアイコンに Script がありません。残念なことに、Mac OS 版ではビヘイビアの編集は外部エディターでしかできないようです。これは自作ビヘイビアを利用するユーザーにとっては無視できない欠点となるかもしれません。なぜなら、Anark
のビヘイビアはデバッグがややしづらい感が筆者にはあるので、トライ・アンド・エラーを繰り返してビヘイビアを書く場合はその都度、外部エディターで編集し、インポートし直す必要があるからです。Anark
は 3D のインタラクティブコンテンツを素早く開発できるところが売りだと思うので、このちょっとした手間は作業の流れを邪魔してしまうかも知れないという点は、Mac
OS 版 Anark Studio 2 ユーザーにとっては不便なところかもしれません。
3.2.2 いくつか右クリックで出ないメニューがある
これはそれほどおおきな問題ではないと思うのですが、一応挙げておきました。どこでこの問題があるかというと、ストレージパレットです。Windows 版では下の画像に見えるメニューがあります。
アイテムを沢山シーンに追加したい場合はファイラー上からのドラッグ・アンド・ドロップが便利だと思うので、今開いているストレージパレットのフォルダを素早く開けるとよかったかも知れません。また、これは筆者はあまり使わない機能なのですが、一つのフォルダに非常に多くの、様々な種類のファイルが混在している場合にはフィルターは有効だと思うので、この機能をよく使う方にとっては残念かも知れません。
3.2.3 Anark Player での再生が遅い
これは Anark Studio や Anark Player の問題ではなく、Mac OS で使われるグラフィックスライブラリの問題のようです。プロジェクトウィンドウ内でタイムラインを再生するプレビューでも、再生中に停止ボタンを押してもワンテンポ遅れてから停止することがあります。Windows
と Mac OS で同じ Anark Media ファイルを試しに再生してみたのですが、Windows ではそれほどハイスペックでなくても十分なフレームレートで表示できるコンテンツが、そこそこのスペックの
Mac で再生すると若干カクカクすることがあります。動画や音楽に関しては特に問題はないと思われる Mac ですが、3D 処理に関してはこれからの発展に期待したいところではあります。
4. まとめ
という訳で Anark Studio 2 for Mac OS X をレビューしてみました。Mac ユーザーではない者がレビューを担当したので、もしかすると穴や抜けが沢山あるかも知れません。「なんだその説明は!バカモン!」という方はメールにて連絡していただけると助かります。
主に Windows 版の Anark Studio 2 と比較をしました。いくつか細かいところで弱いところはありますが、Anark 社も今回のは実験的なリリースであり、足りないところは今後もアップデートプログラムにより、追加・修正していく予定だそうです。そういった立場では、むしろここまで互換性を保てたのは、初リリースとしてはよくできていると思います。とりあえず、機能やインターフェースはさておき、3D
関係の処理能力の向上を待ちたいと思います。あともう一つ、願いが届くのなら、ちょっと不安定なところを改善していただけるとありがたいです。
最後に、Anark Studio 2 で作ったコンテンツをいくつかの動画形式で出力したものをサンプルとしてリンクしておきます。
これらのファイルは QuickTime Player で再生することができるのでお試しください。